月末が近づくと刺し身が薄くなる料亭!?社長が見過ごしていたことは?

2016年8月13日

飲食業

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2016/08/13

質問

月末になると刺し身が薄いと常連からクレームを受けた「割烹みろく」。そのとき、あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

パターン1

料理の大きさや味についてのクレームはお客さまの勘違いが多いので、しばらく様子を見るよう指示する。

パターン2

決められた売上原価率がぶれても構わないから、料理の質を維持して、お客さまのリピート率を上げるよう指示する。

パターン3

刺し身の厚さが常に一定になるように、調理の都度大きさや重さをはかるように指示する。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
飲食店イメージ01
飲食店イメージ02

刺し身の厚さに満足したお客さま

「割烹みろく」は関東地方を中心に10店舗を展開する料亭です。企業の接待などにも使われるそこそこの高級料亭ですが、一般の方もちょっとした記念日などには来店されます。堅苦しさのない、アットホームなお店を目指して創業されました。現社長は3代目で、以前は大手メーカーに勤務していたのですが、父親である前社長が体調を崩したことで3年前より社長として経営の指揮をとっています。

月末の夜、社長がある店舗を訪問したところ、3カ月前に社長にクレームをしてきた顔なじみの年配女性がちょうどお店をあとにするところでした。

社長 いつもありがとうございます。本日の料理はお口に合いましたでしょうか?
女性 ええ、とってもおいしかったわ。特にお刺し身は良かったわ~!また来月も来るから。そうそう来月は学生時代のお友達をお誘いしようと思っているのよ

社長は笑顔を絶やさず、女性の長い話にあいづちをうちながら心のなかでつぶやきました。

「良かった。刺し身の厚さにご満足いただけたようだ」

実は3カ月前、社長はこの女性からあるクレームを受けていたのです。どのようなクレームだったか聞いてみましょう。

3カ月前 ~月末になると刺し身が薄くなる!?

3カ月前のある日、社長がたまたまこの店舗に立ち寄ったとき、顔なじみのある年配の女性客から呼び止められました。

女性 あっ、いいところにいたわ。社長、ちょっといいかしら?
社長 これはどうも、いつもありがとうございます。何かございましたか?
女性 ちょっと気になることがあったのよ。何だか、月初に来るとお刺し身が厚くて、月末に来るとお刺し身が薄くなるような気がするんだけど、気のせいかしら?
社長は少し驚いた顔をしながらも落ち着いた声で答えました。
社長 当店では料理人に料理の腕を磨かせるだけでなく、ちゃんと原価管理などのマネジメントも教育していますから、料理の質や量にぶれが出ることはないと思います

気になった社長はすぐに全店の店長たちに電話をし、似たようなクレームがなかったか確認しました。すると何人かの店長から、刺し身ではないが、月末に来ると料理の質が悪いというクレームを受けたことがある、という回答がありました。社長は考えました。「毎月の店舗の売上原価率は一定なのに、なぜ料理の質が一定になっていないんだ?」

質問

月末になると刺し身が薄いと常連からクレームを受けた「割烹みろく」。そのとき、あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか? 

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パターン1

料理の大きさや味についてのクレームはお客さまの勘違いが多いので、しばらく様子を見るよう指示する。

パターン2

決められた売上原価率がぶれても構わないから、料理の質を維持して、お客さまのリピート率を上げるよう指示する。

パターン3

刺し身の厚さが常に一定になるように、調理の都度大きさや重さをはかるように指示する。

料理の味や量に関する感想はお客さまの気分や食欲でも大きく変わるはずなので、このような苦情にいちいち対応しきれないというのが経営者や現場の本音かもしれません。しかし、経営者が気付かない現場の重大問題がこのような小さな感想に現れることもあります。現場の問題に早急に対応するためにも、またお客さまのニーズの変化に早く気付くためにも、お客さまの声を大切にしたいものです。

実は割烹みろくの社長が選択したのはパターン2でした。社長が割烹みろくに入る前に働いていたメーカーは売上原価率の管理が大変厳しかったため、売上原価率を厳密に守らせれば料理の質と量は維持できると思い込んでいたのです。しかしそのことがかえって逆効果になっていたのでしたが……

確かに料理人が刺し身を切る都度、その大きさや重さを測定するようにすれば均一化できそうです。しかし全ての料理についていちいち測定することは料理人にとってかなりの負担になりますし、その結果、料理をお客さまに提供するのが遅くなるという問題も起こり得ます。また、問題の本質は刺し身の厚さだけではないかもしれません。

人間は評価基準が変わると行動が変わる、それだけのことだった

ある木曜日の夜、社長が自宅に帰ると小学3年生の息子が駆け寄りうれしそうに言いました。

息子 お父さん!僕やったよ!ついにテストで100点とったよ!
社長 そうか!よくやったな!やっぱり毎日少しずつ勉強した成果が出たな。今日の夕飯はお祝いだな!
そうよ。お祝いのステーキよ
息子 やった~。あれっ、でもこのステーキずいぶんと薄い気がするな
社長 確かにステーキではあるが、どちらかというと焼き肉に近いな…
そうよ。今日は月末31日でしょ。今月はいろいろお祝い夕食があったから食費はこれしか残らなかったのよ
息子 そんなのひどいや!先週、お兄ちゃんが100点とったときのお祝いのステーキはこの3倍ぐらい厚かったよ!
息子が涙目でがっかりしている顔を見ながら社長は言いました。
社長 毎月の食費を赤字にしないのはいいけど、何もせっかくのお祝いの日ぐらいはいいんじゃないか?
だめよ!そうやって気を抜くから赤字になるのよ!今月もノルマ達成!

うれしそうにしている妻とがっかりしている息子を見ながら社長は思いました。
「毎月の食費を厳守しようとすると、月末のお祝いはお肉が薄くなってしまう。でもそれではせっかくのお祝いが台無しだ。むしろ普段の夕食はいくら、お祝いのときはいくら、と食費の使い方を決めておけばどうだろう。たまたまお祝いが少ない月は黒字になるけど、お祝いが多い月は赤字になるかもしれない。でもそれでいいじゃないか。ちゃんとお祝いするべきときはお祝いしてみんなが笑顔でいられることの方が大切だ」
そして社長がこのことを妻に話そうとしたとき、ふと頭に浮かびました。
「そうか。今日あったお客さまの刺し身の話も同じことなんだ!」

翌日の店長会議で社長は店長と料理長を集め、こう指示を出しました。
「店長と料理長の皆さん、私は今まで各店舗の月次損益計算書の売上原価率33%を厳密に守るよう指示してきましたが、これからはこの33%はあくまで目安だと思ってください。皆さんのなかには33%を守ろうとするあまり、月末近くになって原価を抑えるために、料理の質を下げていた方がいたかもしれません。しかし大事なことは月次の売上原価率を守ることではなく、料理一品一品の原価をしっかりと守り、いつでもお客さまにご満足いただくことです」

割烹みろくでは、料理長の評価は毎月の売上原価率で行っていました。その結果、各店舗の売上原価率は33%の誤差1%以内という成績が維持されていたのです。社長が割烹みろくに来たとき、売上原価率が毎月3%以上も変動していたため、社長が強く売上原価率を意識するよう各店舗の料理長に指示した結果です。

しかし、社長は気付きました。料理によって原価率は大きく違います。比較的高価なコースメニューは原価率が30%を下回りますが、ランチの定食は原価率が40%を超えるものも一部あります。さまざまな原価率の料理を提供しながら、毎月の合計での売上原価率が33%におさまるのは、料理人が月末になると料理の質や量を変えて調整しているからだったのです。社長は料理人にしっかりと原価管理の教育をしているつもりでいましたが、それが裏目に出ていたようです。

どうやら社長が店長会議で売上原価率が33%からぶれている店舗の料理長に厳しくあたったことで、料理長は個々の料理の品質より月次の売上原価率を維持するという行動をとってしまっていたのでした。料理長はお客さまではなく社長の評価を見ていたのです。

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