急激な来客数減でイタリアン・レストランのオーナーが考えた利益回復の一手は?
2021年10月3日
質問
イタリアン・レストラン「Mirocana」は、ディナー・タイムのみで営業してきましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で来客数が半減してしまいました。料理価格から食材コストを引いた粗利は出ていますが、家賃や人件費などの固定費をまかなえるか心配です。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
従来どおり、ディナー・タイムでの営業を続けるが、完全予約制とする。
パターン2
従来のディナー・タイムでの営業に加え、ディナー・セットのテイクアウトとデリバリーを始める。
パターン3
従来のディナー・タイムでの営業に加え、別メニューでランチ・タイムでの営業を開始する。
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地元の人気店
中級イタリアン・レストラン「Mirocana」は、料理の質に対してお値ごろでおいしいと評判の人気店で、平日17時から23時までの6時間営業をしています。新型コロナウイルス感染症が収束していないため、まだ客席数の半分しか来店客を受け入れられない状況ながら、顧客の満足度は高く、固定費を確実にまかなえています。
客 | う~ん、ここのパスタは本当においしいね。席数を減らしてはいるけど、いつも満席で盛況だね |
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オーナー | おかげさまで、毎日お客様に来ていただけているので、本当にありがたいです |
客 | 一時は大変だったものなぁ。早くこの感染症が収束するといいけどね |
オーナー | そうですね。そうすれば、元のように20人のお客様に店でお食事を楽しんでいただけるんですが |
今でこそ固定費をまかなえているMirocanaですが、半年前はどうしたらいいか悩んでいたのです。
半年前 ~感染症対策で客席稼働が半減
Mirocanaは、開店以来5年、一流のイタリアン・レストランで修業したオーナーがその腕を振るい、地元で地道に顧客を増やしてきました。季節の食材を使った料理がおいしいという評判で、地元の常連客はもとより、少し離れた地域に住んでいる人も予約して来店するほどの人気店でした。平日17時から23時までの6時間の営業で、カウンター8席とテーブル12席の小規模店ですが毎日予約で満席になってしまうほどの盛況でした。
ところが半年前、感染症が国内に拡大し、一時は夜間の営業時間短縮を余儀なくされ、そのときは政府や自治体の雇用調整助成金や家賃支援給付金で月間の固定費は何とかしのぎました。
その後、感染症の状況が少し落ち着き、政府や自治体の自粛要請も終了しました。とはいえ営業するには、感染症対策を講じなくてはならず、密を避けるために20席ある客席は半分しか稼働できません。Mirocanaの料理を食べたいというお客さんは多く、稼働している10席については毎日いわば「満席」状態ですが、結果的に売上はほぼ半減しています。料理の提供価格から食材のコストを引いた粗利は出ていますが、雇用調整助成金や家賃支援給付金がいつまで継続するか心もとないので、店舗の家賃と人件費、清掃委託費とその他の経費などの固定費をまかなうには十分でなく、固定費を毎月確実にまかない利益を計上するためには、何らかの手を打つ必要があります。
質問
イタリアン・レストラン「Mirocana」は、ディナー・タイムのみで営業してきましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で来客数が半減してしまいました。料理価格から食材コストを引いた粗利は出ていますが、家賃や人件費などの固定費をまかなえるか心配です。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
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パターン1
従来どおり、ディナー・タイムでの営業を続けるが、完全予約制とする。
パターン2
従来のディナー・タイムでの営業に加え、ディナー・セットのテイクアウトとデリバリーを始める。
パターン3
従来のディナー・タイムでの営業に加え、別メニューでランチ・タイムでの営業を開始する。
完全予約制とすれば来客数は確定でき、食材の在庫管理が容易になるので、食材ロスは減らせるかもしれません。しかし、5割程度に減っている客数の回復は見込めません。客単価が変わらなければ、売上高も半減したままです。固定費をまかなうという問題は解決できません。
オーナーが選択したのはパターン2でした。客席の半数しか稼働していない中、来店しない潜在顧客は十分にいるため、これらの顧客に店内で提供しているディナー・セットをそのまま提供しようと考えたのです。
ランチ・タイム営業も開始すれば、売上は増えるでしょう。しかし、アルバイトを確保するのは難しく、雇用できたとしても人件費が増加します。また、ランチ・メニューは、お値ごろ感を出すためにディナー・メニューより粗利率が下がることが多くなります。Mirocanaでは、ディナー・タイムのメニューに十分な需要があるので、もっと良い方法がありそうです。
ターニングポイントは、販売量と利益の関係に注目したことだった
ある定休日の朝食後、オーナーが何気なくテレビのチャンネルを回していると、放送大学の番組で管理会計の講座が始まるところでした。
講師 | 皆さん、こんにちは。管理会計講座の時間です。今日も、会計のデータをどのように経営に活かすかについて勉強していきましょう。今日はCVP分析について説明します |
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オーナー | シーブイピーブンセキ? 何だろう? |
講師 | CVP分析では、まず費用全体を固定費と変動費に分類します |
オーナー | え、固定費だって? どれどれ…… |
放送大学の講座では、CVP分析について基本的な考え方から数値例を示して説明していました。例えば、「操業度(販売量など)に関連して固定費と変動費に分けて費用が発生するしくみ」であるとか、「操業度に比例して売上高と変動費の発生額が変化し、それに伴って限界利益がどのように固定費をまかなっていくか」といったことが説明されたのです。
この説明を見たオーナーは、自分が悩んでいた問題の解答を見た思いで、目から鱗が落ちるように感じました。
オーナー | この考え方は使えるぞ! 家賃や人件費などの固定費をまかなうためには、もっと操業度、つまり販売量を上げて限界利益を稼がないとダメなんだな。客席が半分しか稼働できない状況で操業度を上げるためにはどうすればいいのかな? |
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オーナーは、早速放送大学の管理会計講座のテキストを購入し、テレビで見た講座の復習を始めました。リビングでテキストを眺めながら内容を理解するようにじっくり読み始めると、妻が怪訝そうに見ています。
妻 | どうしたの? 真面目くさって本なんか読んじゃって |
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オーナー | いや、店の営業にこの講座で説明しているCVP分析っていうのが使えそうなんだよ。ただ、操業度をどう上げるかが課題だな…… |
妻 | ソーギョードって何よ? |
オーナー | どうやら販売量のことらしい。うちでいうと、提供する料理の食数だな |
妻 | じゃ、ランチ・タイムの営業を始めるなんてどうなの? |
オーナー | それだと、ホールの人員を増やさないといけないから固定費がかかるんだ。ディナー・タイムでどうにか販売量を増やせないかな? |
妻 | 出前をすればいいかと思ったけど、配達する人を新しく雇うと人件費が増えるから無理よね |
オーナー | いや、デリバリーサービスを外部業者にお願いすれば、販売価格に応じて手数料を支払うから、1食当たりの限界利益は減るかもしれないけど、デリバリーの数を増やせれば限界利益を多く稼ぐことができるかもしれない |
妻 | デリバリーを外部業者に任せられるなら、今の人員でテイクアウトの注文を受けたらいいんじゃないかしら? |
オーナーは、早速自分の店のCVP分析をしてみることにしました。デリバリーサービスを外部業者にお願いしたときに支払う手数料は変動費です。そして、外部業者を比較検討したり、自前の人員で配達する場合との採算の違いをシミュレーションしてみたりしました。テイクアウトもデリバリーも容器代が追加の費用となりますが、これもまた変動費です。テイクアウトもデリバリーも販売が一定数量を超えると限界利益は得られそうです。店舗で食事をする人が少なくても、テイクアウトやデリバリーのお客さんが増えれば、操業度を増加させることはできます。店舗の席数は限られていますが、テイクアウトやデリバリーは客席の制限がないので、オーナーが1日に調理できる範囲内であれば、むしろ提供する食数を増やすことができます。
こうした検討の結果、オーナーはデリバリーサービスの外部業者にお願いすることにし、2~3人用のセットメニューをテイクアウトとデリバリーで販売し始めました。店舗での食事の予約をできなかった場合でも、自宅でMirocanaの味を楽しめることになり、常連客は満足しています。また、Mirocanaで食事をしたいけれども、感染防止のために外食に慎重であった年配の常連客には、テイクアウトやデリバリーは好評でした。店舗での食事の提供に加え、テイクアウトとデリバリーを始めたことで、Mirocanaの販売量は感染症拡大前の時期よりも多くなり、結果として前年同月よりも増収増益となりました。
「CVP分析」(cost-volume-profit analysis)
操業度(商品の販売数量)の変動によって、売上高と費用(cost)がどのように変化し、利益(profit)がどれだけ発生するかを見る考え方です。計画段階で利用することで、売上高の増加、費用の削減、利益の増加を検討するシミュレーションとして活用できます。
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