価格競争を回避!? 競争激化の中で見つけた中小企業の生き残り戦略
2016年10月3日
※本記事は2024年12月11日に内容の一部を更新しました。
旧タイトル「ライバルの安売り攻勢に立ち向かう方法を教えてくれた、お客さまの声」
質問
ライバルの外壁塗装業者が安売りキャンペーンを掲げて自社の商圏に参入してきました。価格競争が激化する中で生き残るために、あなたが「ミロクコーティング」の経営者ならどの行動をとりますか?
パターン1
自社も営業担当を増強し、安売り競争に追随する。
パターン2
安売りには追随せず、持ち前の質の高さをアピールできるようにする。
パターン3
既に安売りをしている同業他社と協業する。
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競争激化の中で見つけた生き残り戦略が成功した中小企業
A市の周辺は、25年程前に大手不動産会社が開発して住宅の分譲を始めた地域で、その後もいくつかの不動産会社が住宅開発を進めるなど、今ではすっかり住宅街になっています。この地域では外壁や屋根の塗装が必要になる築後10~25年たった家が多くありますが、最近ミロクコーティングの幕がかかった塗装工事中の家が特に目に付きます。競争激化の中で見つけた生き残り戦略が成功したのです。
ミロクコーティングは、一流の塗装技術を持ち知識も豊富な職人かたぎの社長が創業した外壁塗装会社で、創業以来、A市を中心に事業を営んでいます。塗装工事中や塗り替え検討中の家では、お客さまの質問に笑顔で的確に答えている社長や社員の姿をよく見かけます。
2年前 ~値下げしないと注文がもらえない!? 価格競争の激化に苦しむ中小企業
A市周辺は外壁の塗り替えが必要な住宅が多いため、外壁塗装業者のターゲットになっており、この地域にはさまざまな業者が足を運んできています。この辺りの家のポストには塗装に関するチラシが頻繁に入っている他、直接話を聞いてもらおうと業者がよく家のチャイムを鳴らします。
そのため、ミロクコーティングの社員が塗り替えを提案させていただこうとお宅を訪問しても、
「間に合ってます」
と門前払いに合ったり、
「この前いらした業者さんはもう少し安かったけど……」
といった反応が返ってきたりすることも多く、思ったように工事の受注ができません。
そんな中、ある塗装工事業者が一気に受注を獲得しようと営業担当を増強し、安売りキャンペーンを掲げてこの地域に参入してきたのです。安売りキャンペーンに加え、どうやらその業者は歩合制の営業担当を送り込んできているようで、営業マンにも熱が入っています。もうその業者に決めたとお客さまに言われることも増えました。
社長の心の声 | <こんな状況じゃ、うちも値下げしないと注文がもらえないかもなぁ。会社の業績は厳しいし、どうしたものか……> |
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質問
ライバルの外壁塗装業者が安売りキャンペーンを掲げて自社の商圏に参入してきました。価格競争が激化する中で生き残るために、あなたが「ミロクコーティング」の経営者ならどの行動をとりますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
自社も営業担当を増強し、安売り競争に追随する。
パターン2
安売りには追随せず、持ち前の質の高さをアピールできるようにする。
パターン3
既に安売りをしている同業他社と協業する。
自社の営業担当を増強して受注件数を増やすことで、価格を安くしても全体の利益は増やせるといったスケールメリットが生かせるのであれば、安売り競争に追随するのも一案でしょう。ただし、商圏に限りがある中で、営業担当の人件費増や、安売りによる収益減少を補えるだけの受注増が見込めるか、慎重に検討する必要があるでしょう。
また、価格を下げた分を単純に量で補うという考え方だけでなく、作業の効率化など、コストを削減して価格を下げるための仕組み等についても考える必要があるかもしれません。
実はミロクコーティングの社長が選択したのはパターン2でした。他社が安売りを仕掛けてくるあまり、それに同調することが頭をよぎっていました。その一方で、自社の質の高い塗装技術には絶対の自信を持っていましたし、社員の皆も質では妥協したくないとの思いを抱いていました。実際に工事をしたお客さまがとても満足してくださっていることも誇りに思っており、結局、安売りに追随することはしませんでした……
ミロクコーティングは職人かたぎが強く工事の質に強みがある一方で、営業力は弱いので、既に安売りなどでお客さまを獲得しているような営業力のある同業他社と協業することも考えられます。例えば、営業力はあるものの塗装工事についてはあまり技術力が高くない業者と協業し、お互いを補完することが考えられます。ただし、両社の目指すところが異なる場合、協業自体が難しくなることも十分考えられます。
値下げの影響を会計的に分析したことで、大きな誤解に気付いた
こうした苦しい状況の中、税務顧問をお願いしている会計事務所の先生が訪れたときに、社長は今の悩みを相談してみました。
社長 | ライバル業者の安売りに対抗するには今より1割は値下げしなければなりません |
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先生 | 値下げした分をどうやって補うか考えていますか? コストダウンができますか? それができないのだったら受注件数を5割は増やさないと今よりもっと業績が落ち込むかもしれませんよ! |
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こんな厳しい答えが返ってきたのです。
数値例で考える「値下げ販売の影響」
簡単な数値例を使って値下げ販売の影響を考えてみましょう。
例えば、現在の販売単価が1件当たり10万円で、利益が4万円(利益率40.0%)であると仮定します。1割の値下げを行うと、販売単価は9万円になります。この場合、利益は3万円(利益率33.3%)に低下します。現在の月間利益が100件の販売で400万円だとして、この利益を維持するためには、月間販売件数を約133件(現在の利益400万円÷値下げ後の利益3万円)にする必要があり、販売件数を3割以上も増やさなければ達成できません。「10%の値下げなら10%の販売件数増加でカバーできる」と思い込んでいることがありますが、そんなことはないのです。
【図表】値下げ販売の影響の試算例
また、外壁塗装の場合、1回塗り替えたら基本的に何年もその顧客からの注文は来ないし、地域の塗り替え対象住宅数にも限りがあるので、値下げによるうまみは少ないという点も指摘されました。これではとても利益は残りそうもありません。
社長は値下げ販売の影響を甘く見ていたことを思い知ったのです。そして、自社の実際の数値を使って影響を試算しないといけないことに気付いたのです。
価格競争を回避するために ~自社の強みで勝負
そんなある日、現場作業員からうれしい報告がありました。塗り替え工事中のお宅の隣にお住まいの奥さまから「今度、うちも塗り替えをお願いできないかしら」と声をかけられたのです。社長は早速そのお宅を訪問し、奥さまに詳しい話を伺いました。実は偶然にも、そのお宅の左隣は安売りを仕掛けてきたライバル業者が少し前に塗装したお宅だったようで、現場作業員に声をかけた奥さまは両社の仕事ぶりをよく見ていたのです。
奥さま | ミロクコーティングさんの丁寧な仕事ぶり、いつも拝見しているんですよ。塗る前にきれいに洗浄してたし、何回も重ね塗りしてたわね。仕事が始まる前には近隣にもあいさつに来るし、終わるときれいに片づけもしてる。隣のお宅、見違えるようにきれいになってうらやましいわ。何年か前に3軒先のお宅も塗装されたと思うけど、そこの奥さんもとっても満足しているみたい |
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社長 | ありがとうございます。うちは値段は少し高いかもしれませんが、その代わり仕事の質には妥協しない専門家集団なんです! |
奥さま | ほんとそのとおりね。ちなみに左隣のお宅、営業担当の口がうまくて、この値段で新築みたいになりますよなんて言うから、あそこにお願いしたみたいだけど、仕事ぶりが全然違うわねぇ……。後からお宅の工事の様子を見て、後悔してるみたいよ |
お客さまから当社の進むべき道を教えてもらった社長は、安易な値下げを考えていた自分が恥ずかしくなりました。
値段だけが選ばれる理由じゃない! 自分たちのやってきたことが十分強みになることを知った社長は、技術の高さと丁寧な仕事を積極的にアピールするようにしました。
価格競争を回避するための施策の例
例えば、見学許可をもらっている外壁工事済みのお宅へ工事検討中のお客さまをお連れし、数年たってもほとんど劣化しないことを実際に見てもらうようにしました。
また、作業に立ち会わないと見えにくい丁寧な作業ぶりなどもはっきり伝わるよう分かりやすく資料にまとめました。お客さまの満足度が高いので、その声も資料に掲載した他、新たなお客さまを積極的に紹介してもらえるような仕組みも考えました。そして、質の高さにこだわるために社員の教育にも注力し、専門家集団に任せることのメリットを積極的にアピールするようにしました。
こうして、自社の強みに磨きをかけるとともに、それがお客さまに伝わるように気を配ったミロクコーティングは、塗装作業を見ていた近隣宅から注文が入る他、口コミなどでも評判がどんどん広まり、受注増につながっていきました。
一方、値段の安さと営業マンの口のうまさを武器に参入してきたあの業者は……。
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