新規エリアへの営業拡大をするか否か、正しい判断に導いた経理部長の一言とは?

2017年8月23日

サービス業

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2017/08/23

質問

都心を中心に営業を行っているものの、新規顧客の獲得数が伸び悩んでいる飲食コンサルの会社。新規顧客獲得のため、営業エリアと営業方法について検討しています。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

パターン1

今の社員の一部を新規エリアの営業にまわす。

パターン2

今の社員には引き続き都心を営業してもらい、新規エリアの営業は業務委託する。

パターン3

引き続き都心の営業のみを根気強く行う。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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飲食店をまわる営業マン

「ミロク・アドバイザリー」の営業マンは、今日も担当エリアの飲食店をまわり、店の内装に関連した要望を聞いたり、さまざまな提案を行ったりしています。新規顧客数も順調に伸びているようです。

しかし、激しい競争の中、1年前は新規顧客獲得に苦戦していました。ちょっとその頃の様子を見てみましょう。

既存市場の飽和化

ミロク・アドバイザリーは都心に営業拠点を持ち、飲食店向けにより良い内装になるようコンサルティングしている会社です。以前から積極的な営業をしてきた結果、都心でのシェアは上位に食い込んでいますが、競争が激しいため、このところ新規顧客数は微増にとどまっています。

そこで今日、社長と営業部長とで、今後の営業戦略についてミーティングを行うことになりました。

社長 今、都心ではどの飲食店をまわっても、既に他社がコンサルティングを行っていて、うちが入り込むすきはほとんどなさそうだな
営業部長 私も同感です。そろそろうちは営業エリアを都外にも拡大していく時期だと思います。営業エリアを広げれば、新規顧客を得る余地は大きいのではないでしょうか
社長 とはいっても、いきなり対象エリアを広げ過ぎたら、コントロールしきれない。まずは対象エリアを絞って検討してみよう

そこで2人は、営業拡大の対象エリアを首都圏に限定し、必要な人員・日数・営業ルート・追加コスト等を議論することにしました。現状では、うまく活用しきれていない営業マンや外まわり用の車両が少なからず存在するため、それらを有効活用することも考えています。

営業部長 営業拡大の対象エリアを首都圏に絞るとして、新規エリアの営業は何人くらいの体制を想定されていますか?
社長 まずは5人体制といったところかな。でも、今は活動範囲が重複している営業マンがいるし、全員がフル稼働しているわけじゃないから、何人かを新規エリアへ向かわせることができると思うんだ
営業部長 確かに、今の営業マンの一部を新規エリアへまわせば、会社全体の営業マンの稼働率も改善されますね
社長 あと、新規エリアをまわるには車両も必要になるな
営業部長 あまり稼働していない車両もあるので、今ある車両をまわせると思います。もっとも、ガソリン代・駐車場代・高速代などの諸経費は新たにかかってしまいますが……
社長 これらを合わせると、新規エリアの営業にどれくらいコストがかかるだろう?
営業部長 そうですねぇ。年間で、人件費が3,000万円、車両の減価償却費が300万円、車両費など諸経費が700万円、合計4,000万円といったところでしょうか
社長 そう考えると、新規エリアの営業にかかるコストは、実際のところ結構かさんでしまうことになるなぁ。新規契約が十分積み上がって来るまでにコストがかかり過ぎて、今後の売上で回収するにしても、かなりの長期間となってしまうおそれもあるな
営業部長 確かにおっしゃる通りですね。であれば、新規エリア営業に関しては、外部へ業務委託する案も検討した方が良いかもしれません

これを受けて、営業の業務委託候補先に見積書を依頼したところ、受注実績に応じて変動するものの、見込んでいる受注水準であれば、業務委託費は年間2,500万円程と想定されました。

営業部長 新規エリアの営業を自前でやるとなったら年間4,000万円、業務委託なら2,500万円。業務委託にした方が有利ですかね
社長 いずれにしても、新規エリアの売上が伸びてくれば何とかなるが、そこまで持っていくのは結構大変かもしれないなぁ。それなら、引き続き都心の営業のみを根気強く行った方がいいのだろうか……

質問

都心を中心に営業を行っているものの、新規顧客の獲得数が伸び悩んでいる飲食コンサルの会社。新規顧客獲得のため、営業エリアと営業方法について検討しています。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

今の社員の一部を新規エリアの営業にまわす。

パターン2

今の社員には引き続き都心を営業してもらい、新規エリアの営業は業務委託する。

パターン3

引き続き都心の営業のみを根気強く行う。

実は、ミロク・アドバイザリーの社長が選択したのはパターン1でした。新規エリアの営業を自前でやるとすると、採算が合わないのではないかと当初は考えたのですが、そうではないことが分かったのです。どういうことかというと……

受注実績に応じて業務委託費は変動することになるので、新規エリアの受注が思った程上がらなかった場合でも、コスト負担を抑えられ、リスクを軽減することができます。ただし、ミロク・アドバイザリーでは余剰になっている人員や車両があるので、それを踏まえて採算を考えると、ちょっと状況が変わってくるようです。

新規エリアに営業を拡大するのはリスクを伴いますので、今のエリアでの営業に注力することも考えられます。ただし、今のマーケットは飽和状態であるかもしれず、新たな戦略も検討せずに現状の方法を漫然とやり続けることは、価格競争にもさらされ一層の悪化を招くだけとなり、事業好転は望めないかもしれません。

比較すべきコストを誤解していた!?

営業部長と社長は自分たちの考えについて経理部長の意見も仰ごうと、ミーティングの場を設け、簡単な資料を示して説明を始めました。
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営業部長 うちの営業マンの活用と業務委託、それぞれのコストを試算したのですが、単純な金額の比較ですと業務委託の方がコストの点で有利だと考えられます
社長 その一方で、そもそもの額がいずれも数千万円と大きいので、新規エリア拡大をせずに現状維持の選択もとり得るのではないかと……
経理部長 ちょっと待ってください。それぞれのコストを比較する際、ひょっとして既存の営業マンの人件費や車両の減価償却費も含めてしまっていませんか? 単純な比較では誤った結果を招くおそれがあります。というのも採算管理を行う上では、埋没原価、つまりどちらの方法を採用した場合でも生じるコストは除いて考える必要があります
社長 それはどういうことだい?
経理部長 今回のケースでは、営業マンの人件費、使用する車両の減価償却費は、いずれの方法をとったとしても生じるコストですよね。そうすると、今の営業マンを活用するケースでは、追加コストは車両費など諸経費の700万円ということになります。業務委託のケースの2,500万円よりも1,800万円も年間コストを抑えることができると試算されますよ
社長 本当か! あやうくとんでもない判断誤りをするところだった。今の営業マンを活用する案の方が業務委託するよりも採算が悪くないんだな
経理部長 そういうことです
社長 追加コスト700万円で済むなら、今の営業マンを活用して新規エリアの営業にチャレンジしてみる価値がありそうだな。アドバイスありがとう
 
【ワンポイント解説】

「埋没原価」

管理会計上の概念であり、複数の案を比較検討する際、いずれを選択した場合でも等しく発生するコストを指し、これをサンクコストとも言います。各案のコスト金額からこの埋没原価を除外し、それぞれを比較することになります。

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