売上増でも利益率が落ちる和菓子屋。今後の事業展開の決め手となったモノサシとは?
2019年4月13日
質問
工場と販売店10店舗を近隣の街に展開している「和菓子のみろく」。若年層の和菓子離れなどで和菓子市場全体の拡大が厳しい状況になっている中、なんとか全社合計の売上は増えていますが、営業利益率は落ちています。この状況であなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
店舗ごとの売上実績等を考慮しながら店舗を整理する。
パターン2
老朽化した店舗をすべて改装する。
パターン3
都会の百貨店と連携してデパ地下に新規出店する。
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和菓子の楽しみ方を社会に拡げる老舗
現在の「和菓子のみろく」は、従来の和菓子の製造・販売を続けながら、新しいスタイルの和菓子の楽しみ方を社会に拡げる努力を始めています。工場の一部を使って、和菓子を楽しむ教室など新たな取り組みも始めました。
しかし、3年前の和菓子のみろくでは事業展開の方向性に悩んでいたのです。
3年前 ~事業展開の方向性で悩む日々が続いていました
和菓子のみろくは、地元ではよく知られた老舗の和菓子製造・販売会社です。製造工場の他に販売店10店舗を近隣の街に展開していますが、老朽化してきた店舗も目立ってきました。若年層の和菓子離れなどで和菓子市場全体の拡大が厳しい状況になってきていますが、店舗を増やしていくことでなんとか全社合計の売上は増えています。しかし、自社店舗間での競合も起こるなど、売上が伸びにくくなっているとともに、営業利益率は落ちてきています。
こうした状況の中、社長は、これまでと同じことを継続していてはじり貧となっていくとの危機感を持っています。また、このままでは和菓子の伝統も守れないのではないかと心配しています。
質問
工場と販売店10店舗を近隣の街に展開している「和菓子のみろく」。若年層の和菓子離れなどで和菓子市場全体の拡大が厳しい状況になっている中、なんとか全社合計の売上は増えていますが、営業利益率は落ちています。この状況であなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
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パターン1
店舗ごとの売上実績等を考慮しながら店舗を整理する。
パターン2
老朽化した店舗をすべて改装する。
パターン3
都会の百貨店と連携してデパ地下に新規出店する。
社長が選択したのはパターン1でした。これは、事業規模を縮小する案で、売上の減少につながる可能性があります。また、不採算店を閉店することで、固定資産の除却損など一時的に損失が出るかもしれません。しかし、店舗の人員はアルバイトが多いこともあり、店を閉めることでアルバイトの人件費がかからなくなるため、営業利益の改善が見込めます。このため、身の丈に合った経営につなげることができます。
これは、老朽化した店舗を改装してお客さんを集めることで売上を増やす案です。確かに売上の増加にはつながりそうですが、改装のための資金負担が生じますし、改装後は償却費などのコスト増加にもつながるため営業利益率が上がるとは限りません。老朽化した店舗をすべて改装することはリスクが大きいかもしれません。
これは、事業規模を拡大して、売上を増やそうとする案です。確かに売上の増加にはつながりそうで、こうした方法で成功した事例もありますが、新規出店のための資金負担が生じます。また、既存の工場や店舗とは離れた場所に出店すれば、物流コストが大きく増加したり、賞味期限の問題が生じて廃棄ロスが増えたりすることも考慮する必要があります。何より、既存店の採算が落ちている問題自体は解決しないままとなります。
従業員たちとの話の中で社長が気付いたこと
ある日、和菓子のみろくの社長が従業員たちと一緒に昼食をとっていたときのことです。
従業員A | 中国からの旅行者が相変わらず多いですね |
---|---|
社長 | うちの和菓子もたくさん買ってくれないかなぁ。何なら新規出店してもいいしな |
従業員B | 以前は家電製品とかがよく売れていたらしいですけど、最近では変わってきているみたいですね |
社長 | じゃあ、何を買っているんだ? |
従業員B | 有名な地域限定の土産のお菓子が売れているらしいですよ |
従業員A | あっ、その会社って確か、規模を拡大しないことで有名な会社ですよね |
従業員B | 名物の弁当を作っている会社で、販売網を限定したことが成功の原因になった例なんかもあるようですね |
従業員A | そう言えば、何百年と続く京都の老舗は、規模を大きくしたらつぶれると考えている店主が多いらしいですよ。“店と屏風は広げると倒れる”と言われているとか…… |
社長の心の声 | <俺は規模の拡大ばかり考えていたが、別の視点で考えることも必要なのかもしれないな……> |
身の丈経営のためのモノサシ
それまで社長は、売上や利益の「額」を大きくすることばかりに意識がいっていました。しかし、売上高や利益額を増やそうと身の丈以上の投資をしてしまったら、借入を完済するまで利息は必ず生じるのに対して、拡大した事業から利益が獲得できるかにはリスクが伴います。このように、事業の安定性と効率性が損なわれてしまうという怖さを意識するようになったのです。
その後いろいろな人に相談したところ、身の丈経営のためには、ROIC(=Return On Invested Capital:投下資本利益率)という指標などが使えそうだということが分かりました。和菓子のみろくでは店舗ごとに規模も違えば利益額も違うのですが、まずは店舗ごとの業績をきっちりと把握することから始めました。そして、ROICを使いながら、店舗ごとに投下資本に見合う利益を上げられているかを比較していきました。また、たとえ売上高や利益額が増えると見込まれるとしても、そのためだけに店舗の改装や新規出店を行うという考えは捨て、投資額に見合う利益を上げられるのかという観点から検討することにしました。
その結果、和菓子のみろくでは、店舗の改装や新規出店によって売上高や利益額を増やす拡大路線ではなく、投資額に見合う利益を上げられない店舗を優先して整理するという選択をしたのです。資産の一部は売却し、その代金を借入金の返済に充てることで支払利息も減少しました。生産量が減った分、遊休化することになる工場の一部スペースを活用して、和菓子を楽しむ教室など新たな取り組みも始めました。身の丈経営のためのモノサシを手に入れることができた和菓子のみろくは、売上高は減少しましたが、無理のない事業展開が可能になったのでした。
「ROIC」(投下資本利益率)
ROICはReturn On Invested Capitalの略で、投下資本利益率とも言い、事業に投下した資本額に見合った利益を上げているかを判断する指標です。一般的に次の算式で算出されます。ROIC = 税引後営業利益(注1) ÷ 投下資本(注2)
(注1) 税引後営業利益 = 営業利益 × (1-税率)
(注2) 投下資本 = 株主資本 + 有利子負債
ROICが低い場合、事業に投下資本の割に利益が上がっていないということになり、稼ぐ力が弱い可能性があります。
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