プライベートブランド製品の生産委託を受けるべきか、その決め手とは?
2018年3月23日
質問
「弥勒製パン」では、需要減少により自社ブランドパンの製造量が減少し、工場の稼働率が7割位に落ち込んでいます。そこへ、自社ブランドパンの定価と比べて非常に低い価格ながら、地元の大手スーパーからOEMによる製造委託の話が持ち込まれました。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
委託を断り、自力で販売数を増やす。
パターン2
委託を断り、製造設備を3割縮小する。
パターン3
余力があるので委託を受ける。
|
|
皆が生き生きと働くパン工場
「弥勒製パン」は、昭和30年代に創業して以来「ミロクパン」の自社ブランドで60年余りにわたって、おいしいパンを作っていると地元で評判のパン製造販売会社です。数年前までは、売上も順調に推移していました。
製造量が全盛期よりも減少し活気が薄れていた1年前がウソだったかのように、今日も工場では皆が生き生きと働いています。
1年前 ~委託製造の依頼があった
1年前のことです。ここ数年、需要量の減少でパン製造量が減り続け、特に直近2年間は工場の稼働率が7割程度に落ち込んでいます。
そんな中、地元で展開するスーパー「スキト」から、OEM(Original Equipment Manufacturer。他社ブランド製品の製造)による製造委託、つまり「スキト」ブランドでのパン製造委託の話が持ち込まれたのです。「スキト」では、すでにOEMによるプライベートブランドでの製造をX製パンに委託していましたが、お客さんの評判が良くないので、1年間の契約期間が終了する時点で、弥勒製パンと委託契約を結びなおしたいという提案でした。ただし、「スキト」が買い取る単価は、弥勒製パンが自社ブランドで売っている単価よりもだいぶ低いようです。
質問
「弥勒製パン」では、需要減少により自社ブランドパンの製造量が減少し、工場の稼働率が7割位に落ち込んでいます。そこへ、自社ブランドパンの定価と比べて非常に低い価格ながら、地元の大手スーパーからOEMによる製造委託の話が持ち込まれました。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
委託を断り、自力で販売数を増やす。
パターン2
委託を断り、製造設備を3割縮小する。
パターン3
余力があるので委託を受ける。
委託を断り、自力で自社ブランドのパンの販売数を増やすことも考えられます。しかし、需要が減って数年が経っており、弥勒製パン自らの力で自社ブランドのパンの需要を増やすこと以外の方法を検討した方がよいかもしれません。
工場の稼働率が低い状況が続いており、今後自社ブランドのパンの需要増加も見込まれないのであれば、委託を断り、製造設備を縮小することも考えられます。しかし、一度設備を縮小してしまったら、その後の拡大は難しくなるので、他に策がないのか十分検討したほうが良いでしょう。
弥勒製パンの社長が選んだのはパターン3でした。一見、OEMで他社ブランドの製品を製造すると、ライバルのブランドの製品が増えてしまい、マイナスのように思われるかもしれません。しかし、この選択には勝算があったのです。果たしてその勝算とは……
ターニングポイントは「製造固定費の新しい回収方法」に着目したことだった
ある日のこと、社長、営業部長、製造部長、経理部長が集まってミーティングをしています。
社長 | 現在の製造単価はこれ位になっている。このまま続くようだと、だいぶ苦しいな。まさかパンの販売価格を上げるわけにもいかないし。製造固定費を削減できればいいんだが…… |
---|---|
経理部長 | 固定費そのものを削減しようとすると、通常は工場の設備に手をつけたり人件費を削減したりということが考えられますが…… |
製造部長 | でも、工場の設備を売却するなんて不可能だし |
社長 | もちろん、リストラは絶対にしない。うーん、他に何か方法はないもんかな |
社長の経営理念に基づくと、確かに固定費を低減するのは難しそうです。 | |
社長 | となると、しばらくは今までどおりの製造量でやっていき、今後は販売に力を入れなくてはならないか…… |
営業部長 | とはいえ、ここ数年で需要が落ち込んでいて、自力で販売量を大きく増やしていくのはなかなかハードルが高いかもしれません |
社長 | うーん、販売量を大きく増やすのは難しいか。じゃ、「スキト」の話はどうかな? これも製造量を増やす話だけど、実現性はあるんだろうか |
営業部長 | X製パンのパンはあまりおいしくないから売れなかったかもしれませんが、うちのパンは味に定評があるので、「スキト」の店舗で売ることができるなら、もっと売れるかもしれません。問題は「スキト」が買い取る単価がだいぶ低いということです |
社長 | そうだな。ただ、販売コストは「スキト」の負担だから費用の増加はないよな。それじゃあ製造コストのほうはどうだろう? |
経理部長と製造部長が「スキト」の提案に基づいた製造量の増加を踏まえて製造コストを試算してみました。今の製造設備等の稼働率は7割程なので、「スキト」が委託したいと言っている予定製造量なら今の設備や人員でまかなえそうです。パンの材料費や水道光熱費などの諸経費は増えますが、それ以上に「スキト」からの収入が増加することになります。自社ブランドよりも単価はだいぶ低いですが、弥勒製パンが自力ではとても販売できないような量を安定して確保できそうです。
OEM製造の受託可否の検討を進めた結果、弥勒製パンの方向性が見えてきました。
営業部長 | ただし、現在の「スキト」のプライベートブランドのパンはおいしくないというブランドイメージが浸透しているので、新しいブランドやパッケージで売ることを「スキト」に提案したほうがいいと思います |
---|---|
社長 | ほう、さすが、営業部長だな |
営業部長 | いえ、ちょうど最近、「スキト」で女性のお客様が会話しているのを耳にして、今の「スキト」のプライベートブランドのパンのイメージを払拭する必要がありそうだと感じたので |
社長 | お客さまの情報は重要だよな。これからも収集を頼むよ |
その後の1年間で、弥勒製パンはOEMによる製造委託を受け製造量が増えたことにより、製品当たりの製造固定費が減らすことができました。OEMによる製造固定費の回収、つまり製造固定費を回収できるだけの収入増加が進んだことで、利益も大きく増やすことができました。
「OEMによる製造固定費の回収」
製造設備や製造人員を抱えていれば、製造量が少なくても製造固定費が発生してしまいます。製造余力がある場合には、余力の範囲内であれば製造固定費を増やすことなく製造量を増やすことができ、収入増加となって採算改善に貢献します。これを製造固定費の回収と言い、OEMでの製造委託を受託することもその1つです。製造の余力がないのに製造を受託すると追加で発生する製造コストが多くなり、採算が厳しくなるので注意が必要です。セミナー情報
経理実務の「3大困りごと」 仕訳入力・経費精算・給与計算の業務効率化の考え方
【LIVE配信】10月24日(木)13:30~15:30
【アーカイブ配信】10月29日(火)~11月29日(金)
「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」から362件の経理担当者のリアルな声が聞けました!
その中でも実務において経理担当者が困っている「仕訳入力」「経費精算」「給与計算」の「3大困りごと」を改善するためのセミナーを開催します。
本セミナーでは、数々の経理業務の代行や業務改善コンサルティングを行っている講師が、それぞれの業務から見た改善ポイントを考察します!
【講師】MJS税経システム研究所 客員講師
外波 達也 氏
経営センスチェックの記事の中から、資金繰りの改善、好業績を錯覚しないためのポイントなど、テーマにそっておススメの記事を抜粋した特別版冊子を掲載しています。
最新版では、「値上げ前に考えたいコスト削減方法」について取り上げています。世界的な原油や原材料の価格高騰により、値上げが多い一方、競争戦略的に値上げをしない、または値下げに踏み切る企業もありました。
皆さまがコスト削減するにあたり、ぜひ参考にご覧ください!
関連リンク
-
情報通信業
サブスクリプション型ビジネスの採算はどう考える? 家庭菜園との意外な共通点とは?
-
その他
苦難のオホーツク水産加工業者が挑戦した新たな一手とは?
-
製造業
有効活用したのは何? 固定費負担で採算割れの家具店を救った、あるものとは?
-
飲食業
急激な来客数減でイタリアン・レストランのオーナーが考えた利益回復の一手は?
-
小売業
客足が遠のき閉店危機の洋品店が見つけた! お客様の役に立つサービス提供とは?
-
飲食業
家賃が高過ぎるコロナ禍の東京で、ミャンマー料理店をオープンさせた秘策とは?
-
サービス業
顧客激減の旅行会社がとった、生き残りのための逆転の発想とは?
-
飲食業
売上高半減の外食チェーン。客数が戻らない中での打開策とは?
-
製造業
債務超過を解消する特効薬(その2)! 仕方ない、“あれ”を売ろう! 何を売る?
-
製造業
カスタマーサポートの勤務体制見直しのヒントは、大渋滞する駐車場にあった?!
X(旧Twitter)で最新情報をお届けしています
Tweets by mjs_zeikei