月末になると笑顔が消えていた料亭に、笑顔が戻った理由

2016年9月23日

飲食業

  • 飲食業
2016/09/23

質問

人手不足のため、月末になると店員から笑顔が消える「割烹みろく」。それを知ったとき、あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

パターン1

店長に日々の客数予想をたてさせ、それに基づく人員のシフト表を作成するよう指示する。

パターン2

人手が不足しているなら、店長に対して足りない分のアルバイトを新規採用するように指示する。

パターン3

店員とアルバイトに対してあらためて接客研修を行い、接客の質向上を目指す。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
飲食店イメージ01
飲食店イメージ02

店員のおもてなしに満足したお客さま

「割烹みろく」は関東地方を中心に10店舗を展開する料亭です。企業の接待などにも使われるそこそこの高級料亭ですが、一般の方もちょっとした記念日などには来店されます。堅苦しさのない、アットホームなお店を目指して創業されました。現社長は3代目で、以前は大手メーカーに勤務していたのですが、父親である前社長が体調を崩したことで3年前より社長として経営の指揮をとっています。

割烹みろくは高級料亭がメインですが、価格帯を下げた比較的カジュアルなお店もいくつか展開しています。これら店舗では飛び込みでやってくるお客さんのほうが多いため、予約客がほとんどの高級店に比べてアルバイトのシフトが難しいという特徴があります。さて、このカジュアル店でのお話です。

ある月末の夜、社長が店舗を訪問したところ、3カ月前に社長に苦言を呈してきた顔なじみの年配女性が、友人らしき同年代の女性3人と一緒に食事の最中でした。

社長 いつもありがとうございます。本日のサービスはご満足いただけていますか?
女性 ええ、とっても!料理もさくさく出てくるし、すぐにお茶も入れてくれるし、店員さんの笑顔がとってもいいわ。私のお友達もとっても良いお店だって

さて、3カ月前のこの女性からの苦言がどんなものだったか、聞いてみましょう。

3カ月前 ~月末になると店員から笑顔が消える!?

3カ月前のある日、社長がたまたまこの店舗に立ち寄ったとき、トイレから出てきたなじみの年配女性客から呼び止められました。

女性 ちょっと、ちょっと社長!今日は一体何があったっていうの?何か大きな宴会でもやってるの?
社長 はぁ……。特に大きな宴会などありませんが…どうかなさいましたか?
女性 いつもフロアに3人ぐらいいる店員さんが今日は1人しかいなくて、必死に走りまわってるのよ、すごい形相で。だから、注文お願いするのも気が引けちゃうし、お茶がなくなっても声かけられなかったわ。私、今日は大切なお友達をお連れしたのに恥をかいちゃったわ!
社長 それは大変申し訳ございませんでした。当店では、店員やアルバイトに厳しく接客を指導していますし、常に店長が責任持って店内を見ておりますから、そのようなことはないと思うのですが…すぐに確認させていただきます
女性 そうね。頼むわね。あっ、そういえば、以前も同じようなことがあったわ。それも今日と同じ月末だったわ

社長はお客さまに頭を下げながら少し気になることを思い出していました。実は、ときどきお客さまから店員の人数が少なくて嫌な思いをしたというお話を聞いたことがあったからです。そしてよく考えてみると、それはいつも月末近くで起こっているのです。

質問

人手不足のため、月末になると店員から笑顔が消える「割烹みろく」。それを知ったとき、あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

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パターン1

店長に日々の客数予想をたてさせ、それに基づく人員のシフト表を作成するよう指示する。

パターン2

人手が不足しているなら、店長に対して足りない分のアルバイトを新規採用するように指示する。

パターン3

店員とアルバイトに対してあらためて接客研修を行い、接客の質向上を目指す。

実は割烹みろくの社長が選択したのはパターン1でした。それまで社長は毎月のアルバイトの人件費が予算内におさまっていることから特にシフトに問題はないと思っていました。しかし、実は客数の変動にかかわらず毎日同じようなシフトを組んでいたために、比較的来店客が少ない月中まではシフトに余裕がある一方で、月末近くになると店長が人件費を予算内におさめようとする結果、アルバイトを十分に配置できないという問題が生じていたのでした……

シフトに入れる人員が足りないために、月末近くに人手が不足するのであれば、新たにアルバイトを採用して人員を確保することも考えられます。しかしなぜ月末近くに人員が足りなくなるのか、という根本的な原因を把握しないまま新しい人員を雇用しても、本来不要なはずの人員が増えてしまっただけということにもなりかねませんので注意が必要です。

社長はなじみのお客さまに、「店員やアルバイトに厳しく接客を指導している」と説明しているとおり、社長は最初、今回の問題を接客の問題と感じたようです。今回の件が接客の問題であれば接客研修は有効ですが、むしろアルバイトのシフトに問題があるようです。

店長が責任を持って管理すべきは「人件費」ではなく、「客数と店員数」だった

社長はお客さまからご指摘があったその日、信頼している経理部長と打ち合わせをしていて、ふとその話になりました。

社長 お客さまから、月末になると店員の人数が少なくなるといわれたんですが、そのようなことを社内で聞いたことはありますか?
経理部長 もしかすると月中にアルバイトの人件費予算を使い切ってしまったのかもしれません。人件費予算をオーバーしないよう、アルバイトの人数を絞ることがあるようですから
社長 それではお店がまわらず、お客さまからも苦情が出るのではないですか?
経理部長 そのとおりです。ただ、アルバイトの人件費が予算オーバーして店長会議で絞られるよりはマシだと思う店長もいるのが現実ですから……

社長は店長会議でアルバイトの人件費が予算を超えた店長を厳しくしかったときのことが頭によみがえり、それ以上は聞くことができませんでした。

その日の夜、社長が自宅に帰ると小学6年生の息子が駆け寄り「お帰りなさい!」と元気に出迎えてくれました。

息子 お父さん、カバン持つよ!お風呂も入ってるよ!僕が入れたんだ
社長 何だか、気持ち悪いな~。分かった、またお小遣いがなくなったな?
息子 へへっ。実は明日はクラスの友達と遊びに行くんだけど、お小遣いがもう50円しかないから、何も買えないんだよ。来月のお小遣いを今日くれないかな……
社長 何だ、仕方ないな~。何だか毎月お小遣いが足りなくなってないか?
社長が財布から小銭を取り出そうとすると、奥さんが大声でいいました。
だめよ、あなた!そうやって毎月毎月お金をあげていたら、いつまでたってもお小遣いのなかでやりくりできるようにならないわよ!
息子 ひどいよ~。今月は友達の誕生日があったから出費がかさんだんだよ!
友達の誕生日なんて最初っから分かってたことじゃない。良いことを教えてあげるわ。お小遣いはね、計画的に使うのよ!家計と同じ!
息子 それなら僕だって計画的に使ってるよ
違うわ。計画的っていうのはただ月末に向けて少しずつ使っていくってことじゃないのよ。そんなことをやっていると今月のあなたのように、突然の出費があると月末にお金がなくなるでしょ
息子 じゃあ、計画的ってどういうことなの?
それはね、お小遣いをもらったら、次のお小遣いまでに出費がありそうなことを洗い出すのよ。友達の誕生日とか、遠足があればお菓子代もいるでしょ、家族で旅行に行く予定があればそこでお金を使うでしょ。そうやって、いつ何があるかを予測して、そこで使うお金を決めておくのよ。そうすると残ったお小遣いをいつどうやって使うか考えられるでしょ
息子 ママ頭いいね~。よく分かったよ!じゃあ来月からそうするよ。で、取りあえず今月分としてあと500円くれないかな~

妻と息子のそんなやり取りを聞きながら社長は思いました。
「なるほど。予算を少しずつ使っていこうとすると月末に苦しくなる。だから先に一カ月の予定を組んでおく。予算管理の大事なところは、予測し計画することだったんだ」

翌日の店長会議、社長はカジュアル店の店長たちにこう指示を出しました。

社長 今週中に来月一カ月分の日々の来客数を予想して本部に提出してください
店長A 31日分の日々の来客数ですか…難しいです。どうやってやればいいんですか?
社長 去年の同時期、日々の来店数がどうだったかは、去年の資料で分かりますよね。それをもとに今年の近隣のイベントなどを考慮して推定してみてください
店長B たぶん当たらないと思いますが、それでもいいですか?
社長 いえ、当たるように努力してください。今後は皆さんが予想した日々の来客数をもとに、毎日のアルバイトの人数を決めてほしいのです
店長C そうすれば店員の人数がお客さまの人数に対して適正水準になるというわけですね。しかし来客数を予想してアルバイトの人数を適正水準にしたら、月間のアルバイトの人件費見込みが従来の予算を超えてしまうかもしれません……
社長 それなら、そのオーバーした金額が本来の人件費予算だということです。大切なことはアルバイトの人件費を予算内におさめることではなく、お客さまにご満足していただけるよう、サービスのレベルを維持することです。そのためにも来客数の予測の精度は日々高める努力をしてください

社長は店長に理解してほしかったのです。人件費を予算内におさめることがマネジメントなのではない、いつも適正な人数の店員を配置し、高品質なサービスを提供できるようにすることが本当の意味でのマネジメントだということを。

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