店長が広告費予算を販促費に流用!?悩んだ社長の決断とは?
2016年11月3日
質問
広告宣伝費予算を販促費に流用して売上・利益予算を達成した「割烹みろく」の店長。あなたが経営者ならそれに対して次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
店長は経費予算を流用しても売上・利益予算を達成したのだから高く評価する。
パターン2
予算を別用途に使うときは、事前に社長の承認を得るように指示する。
パターン3
広告宣伝費予算については本社管理とし、各店長には一切タッチさせない。
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高級料理屋として地元テレビでおなじみになったお店
「割烹みろく」は関東地方を中心に10店舗を展開する料理屋です。企業の接待などにも使われる中堅の高級料理屋ですが、一般の方もちょっとした記念日などには来店されます。雰囲気は高級ながら家族連れでも入りやすいお店を目指して創業されました。現社長は3代目で、以前は大手メーカーに勤務していたのですが、父親である前社長が体調を崩したことで3年前より社長として経営の指揮をとっています。
3代目社長が会社に来た頃は、まだ「割烹みろく」の名前は「知る人ぞ知る」という程度の知名度しかありませんでした。しかしここ数年の不景気の中、地元テレビでCMをうつなど広告活動を積極的に行った結果、「割烹みろく」の名前は、かなり浸透してきました。しかしこれも3代目が社長に就任した直後のある大きな意思決定がそのきっかけになったのでした。そのときのことを見てみましょう。
3年前 ~広告宣伝費予算を販促費に流用して売上・利益予算を達成した店長
社長が3代目として会社で働き出して数か月がたったとき、年度末の経営会議が開催されました。この経営会議で社長は店舗別の予算実績差異表を見て疑問を感じました。
社長 | 各店舗とも売上予算も利益予算も達成していますが……、よく見ると、広告宣伝費は予算を大幅に下回り、一方で販促費は予算を大きく超えています。これはなぜですか? |
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店長A | 社長もご存じのとおり、今期は株式市場も全体的に暴落して、景気がぱっとしませんでしたから、不特定多数の方をターゲットとした広告宣伝をうっても売上に結び付きにくいのです |
社長 | だから、広告宣伝費予算を販促費として使ったわけですか? |
店長B | そうです。来店されたお客さまに粗品を渡すと、そのお客さまは比較的すぐにリピートしてくださるのです。そしてこの粗品代は販促費で計上しています |
社長は気付きました。店長たちは売上・利益予算を達成するために、広告宣伝費という短期的に売上効果の出にくい経費を削り、かわりに売上に結び付きやすい販促費を増やしたというわけです。 |
質問
広告宣伝費予算を販促費に流用して売上・利益予算を達成した「割烹みろく」の店長。あなたが経営者ならそれに対して次のうちどの行動をとりますか?
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パターン1
店長は経費予算を流用しても売上・利益予算を達成したのだから高く評価する。
パターン2
予算を別用途に使うときは、事前に社長の承認を得るように指示する。
パターン3
広告宣伝費予算については本社管理とし、各店長には一切タッチさせない。
今期の売上・利益予算は達成したのですから、その点は評価すべきだと思います。しかし、予算の目的外利用をこれからも続けて良いのでしょうか? 短期的な利益を追求する代償として、大きな目的が失われているかもしれません。
決められた予算を勝手に流用してしまったことは確かに問題です。ただ、仮に社長の承認を得て販促費に流用した場合、ガバナンス上の問題はないかもしれませんが、本来別の目的で予算化されているはずの広告宣伝費を流用することが会社の業績等に悪影響を及ぼさないか考える必要はあるでしょう。
実は「割烹みろく」の社長が選択したのはパターン3でした。社長は社員に対して、今期の売上・利益予算を達成するために努力したことは評価しつつ、お店のブランディングなど中長期的に安定した経営を実現していく上で必要となる広告宣伝費は、短期的な予算を達成するためとはいえ、別の用途に流用してはならないことを伝えました。
そして、来期以降、広告宣伝費予算は本社で管理するとともに、全社的な広告宣伝の計画・実行も基本的に本社で主導していくようにしたのです。
お店のブランディング費用は、店長の責任にするべきではなかった!
社長は経営会議の場では、店長たちをほめるべきか、非難すべきか判断できず、そのまま会議を終わらせました。そしてその日の深夜、自宅に戻った社長が妻から中学2年生の息子のお小遣いについて相談を受けたことがヒントになりました。
妻 | あなたちょっと聞いてよ。今日、担任の先生から電話があって学校に行って来たんだけど、あの子最近、体育の授業中にめまいがするからって、保健室に行くことが多いみたいなのよ |
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社長 | 先生から連絡が来るってことはよっぽどだね。本当に体調が悪いのか、さぼるための口実か……。もう本人には確認してみたの? |
妻 | それが、あの子ったら昼食代として渡してるお金をお昼ご飯に使わずに、貯金してたらしいのよ |
社長 | なるほど。それで、体育の授業中にめまいがするようになって休んでたってことか。でも、一体何でそんなことを? |
妻 | あの子、カメラが好きでしょ。でも自分のお小遣いだけじゃなかなか買えないから、少しでも早くたまるようにって思ったらしいのよ |
社長 | でも、そんなこと続けてたら、体に良くないことくらい分かるだろうに |
妻 | 後でどうなるかなんて考えてないのよ。だからこれからは昼食代を渡すんじゃなく、お弁当にしようと思うの。本当に必要な物でお金がかかるなら、相談してくれればちゃんと考えてあげるからって伝えたわ |
社長 | なるほど。弁当にすれば昼食代を削って貯金することができなくなるわけだから、ちゃんとお昼ご飯を食べるようになるかもね。それに、きちんと相談して、必要な物なら買ってくれるというのであれば、それ程不満に感じないかもな |
妻 | そういうこと。あの子と話す機会が増えるし、どんなことを考えているのか知ることができれば、私もうれしいわ |
社長 | 確かに!当たり前と言えば当たり前だが、素晴らしいアイデアだ!……しかし、問題は本当に毎日弁当を作れるかだな…… |
妻 | …… |
そんな話をしながら社長は思いました。もしかしたらこれは今日の経営会議の話と同じかもしれないぞ。店長たちも広告宣伝は中長期的なブランド力アップにつなげるための大事な活動であることは理解しているだろう。でも今年1年の売上・利益予算の達成を考えたら、即効性のある販促費にまわしてしまう。店長にとっての広告宣伝費は息子にとっての昼食代と同じというわけだ! その夜、社長は妻から聞いたお弁当の話をどうすれば「割烹みろく」に落とし込めるか考え続けました。 さて、翌週の店長会議での様子です。 |
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社長 | 昨年度、各店舗が広告宣伝費を販促費に振り替えたことで何かお客さまから反応はありましたか? |
しばらく店長たちは何も言おうとしませんでしたが、古株の店長Aが口を開きました。
店長A | そういえば、常連のお客さまから、最近、うちの新聞広告を見なくなったので当店のことを忘れていて、誕生日パーティーを他のお店でやってしまったと言われました |
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店長B | 実は……、私も、常連さんから地元のテレビコマーシャルを見なくなったけど、業績が悪いのかって聞かれました |
社長 |
やっぱりそうですか。皆さんもご存じのとおり、広告宣伝費を削減するのは簡単ですが、その削減によるダメージはじわりじわりとお客さまのブランドイメージの悪化という形で現れてきます。 そこで来年度からは予算の仕組みを変えます。店舗の予算から広告宣伝費を削除して、全て本社の経費予算に入れます。また、全社的なブランディングに関する計画や実施も基本的に本社主導で行います |
店長C | これまでクリーンアップ作戦と銘打って、周辺地域の清掃活動を行うなど店舗独自でイメージアップのために実施していた活動もあるのですが…… |
社長 | 安心してください。店舗独自の活動は引き続き実施できるように、広告宣伝費予算とは別に、各店舗の判断で使える予算枠を用意します |
店長D | そうすると……、これまでのように売上・利益予算を達成するために広告宣伝費予算を販促費に流用しようと思っても、それはできないってことですね |
社長 | そのとおりです。皆さんが流用できる大きな経費が一つ減ってしまうことになります。しかし、そもそも年初に予算化した販促費も広告宣伝費も会社や店舗にとって必要かつ適切な金額だったはずです |
店長E | 確かにおっしゃるとおりなのですが、お伝えしたとおり、景気も悪い中、当期の予算を達成するために何とかしなければならないわけで…… |
社長 | もちろん景気の悪化など状況が変わると、当初の計画どおりに進まないこともあるでしょう。だからといって目先の目標達成のために、将来への投資をないがしろにしていいわけではありません。それに、そんなことでは景気が悪いと予算の達成ができない会社になってしまいますし、会社の中長期的な成長を考えて作った予算の意味もなくなってしまいます。景気が悪いときでも、当期の目標を達成してくれることを期待していますし、私は会社のオーナーとしてリスクをとってでも必要な広告宣伝を続けていきたいのです |
こうして「本社が管理すべき予算」と「店長に権限委譲しても良い予算」が明確になり、「割烹みろく」のブランディングは順調に進んだのです。
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