事業承継で後悔したくない社長が選んだ道とは?
2016年12月13日
質問
20代で独立し、わが子のように育てた会社。しかし、気力・体力の衰えを感じ、そろそろ引退を考えるもこれといった後継者も見当たらず、かといって安売りする気もない。あなたが「ミロク工業」の社長なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
いざというときが来るまで体にムチを打って働き続ける。
パターン2
信頼できる外部コンサルタントに相談する。
パターン3
いっそのこと事業承継はあきらめ、会社を清算する。
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孫と戯れる日々
特殊な工作器具を生産するミロク工業。この会社の創業者は、若い頃他の工業器具メーカーで培った経験を生かし、30代で起業しました。新興とはいえ同じ業界での独立です。お世話になった会社に退職を願い出るときには、相当の覚悟が必要でした。意を決して、退職・独立を願い出たところ、その会社の社長は「お前がそこまで言うなら」と気持ちよく送り出してくれたのです。その後、紆余(うよ)曲折ありながらも、40年間、一代でここまで築き上げたと言うのですから、ミロク工業への思い入れも強いことでしょう。
そんな彼も今では相談役に退き、働く娘夫婦の代わりにかわいい孫を保育園に送り迎えし、娘夫婦が帰宅するまで孫と戯れる平和で幸せな日々を送っています。
1年前 ~ 誰も会社の価値を分かってくれない
当時、ミロク工業の社長はいら立つ毎日を送っていました。手塩にかけてわが子のように育ててきた会社の行く末がどうなるのか、不安だったのです。昨年、糟糠(そうこう)の妻に先立たれ、それ以来、精神的にも肉体的にも衰えを感じるようになっていました。
<俺も寄る年波には勝てないか。体力のあるうちに会社の今後をどうするか、大きな決断をしなくてはならないな>
と考えるようになりました。
しかし、最良の案があるわけではありません。子供に継がせようにも娘は既に結婚し、その夫は出版社勤務で、とても工場の後継者として考えられません。また、工場長をはじめとする工場の従業員たちは業界動向に精通しており、技術もありますが、銀行との折衝など経営者としての資質は未知数です。
思い余って知人の経営者に会社の売却を打診したところ、自分の見積もりの半分以下の金額を提示され、あまりの腹立たしさに思わず受話器を置いてしまいました。
質問
20代で独立し、わが子のように育てた会社。しかし、気力・体力の衰えを感じ、そろそろ引退を考えるもこれといった後継者も見当たらず、かといって安売りする気もない。あなたが「ミロク工業」の社長なら次のうちどの行動をとりますか?
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パターン1
いざというときが来るまで体にムチを打って働き続ける。
パターン2
信頼できる外部コンサルタントに相談する。
パターン3
いっそのこと事業承継はあきらめ、会社を清算する。
確かに定年もありませんし、気力・体力が衰えたと言えまだ働くことはできます。しかし、それでは手遅れになりかねません。引き継げるときに引き継いでおくことが肝心でしょう。
ミロク工業の社長が選択したのはパターン2でした。コンサルタントに相談することで、事業承継における優先順位を明確にし、さまざまなシナリオに基づく選択肢のなかから納得できるプランを選ぶことができました。
パターン3も有力な候補ですが、ミロク工業のように特殊な技術を持っている会社にはもったいない選択と言えます。つまり、会社清算だとモノとしての会社の評価となるため、土地や建物等の売却価値でしか評価されなくなってしまうからです。
事業承継で最も大切なのは納得感だった
悶々(もんもん)とした日々を送るなか、旧知の友人にそれとなく話を振ったところ、新宿にある会社のM&A部門のコンサルタントに相談してみてはどうかということになりました。その友人は信頼できる人だったので、その日の夕方に早速電話を入れてみました。
翌週、早々にコンサルタントがやってきて、財務諸表や契約などオフバランスの内容も含め、財務内容を精査しました。いわゆるデューデリジェンスと呼ばれる作業です。
社長は、先日、半分以下の値段を突き付けられた経験からひやひやして結果を待ちました。
コンサルタントとの面談の日、会社の評価額の話をされると思って身構えていたところ、コンサルタントから思わぬことを聞かれました。
コンサルタント | 社長はこの会社をどういう形にして去りたいのですか? |
---|---|
社長 | 私はこの会社にはこれからも存続していってもらいたいと考えています。また、これまでの経験も生かし、会社を見守りたいと思っています |
コンサルタント | 分かりました。そうした形で引き継げる後継者の候補はいらっしゃいますか? |
社長 | 親族がベストなのですが、残念ながら適した人物がおりません。私の右腕として働いてきた工場長はおりますが、本人には聞いておりません |
コンサルタント | 分かりました。その点も踏まえ調査してみますので、しばらくお時間をください |
社長 | えっ、査定額とかの話はしないのですか? |
コンサルタント | 社長のお気持ちが一番ですので、金目の話は一番後にいたします |
ミロク工業の社長は、この人の言うことなら信じてみようという気持ちになっていました。
面談後、コンサルタントは、まず、社長の意向を優先して、工場長と有志によるEBO(Employee Buy-outの略。従業員による買収)の可能性を検討しました。これは、従業員が株式を買い取ることによって、経営権を継承するというものです。この方法をとる場合、株式を買い取るための資金を確保できるかどうかが重要になります。あれこれ手は尽くしましたが、資金の調達がどうにも難しく、EBOの実行は見送られました。
そうこうしているうちに、コンサルタントの持つ広いネットワークから、新たな承継先が候補に挙がってきました。ミロク工業の専門技術を生かしたいと考えている、地方の企業です。以前、知人の経営者に会社売却を打診した際に示された価格よりもはるかに高い譲渡額で、というわけにはいきませんでしたが、何より、社長の「会社を見守りたい」という希望を加味して、相談役で迎えてくれるという提案をしてくれています。同時に、社長の心配のタネだった従業員の雇用についても、継続できるよう前向きに検討してくれると言うのです。
ここまで真摯(しんし)に対応してくれたコンサルタントから丹念な説明があったことで、社長自身が、自社の現実的な企業価値を受け入れることができたのが、何よりの成功要因と言えるでしょう。
本例のように、事業承継に関する知識が圧倒的に少なかったり、「会社は自分のもの」という思い入れが強かったりして、会社の資産価値を正しく評価できず、事業承継を困難に感じる経営者が多いのが事実です。ミロク工業の社長のように納得感のある事業承継を手に入れるためにも積極的に信頼できる外部コンサルタントを活用しましょう。
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