宴会場を埋めるための無理な値引き営業をやめさせた製造業の知恵とは??

2017年1月3日

飲食業

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2017/01/03

質問

売上高予算を達成するために、月末近くになると無理な値引き営業で法人の宴会を獲得している法人営業マン。あなたが事業部長ならどのような指示をしますか?

パターン1

今の営業方針のまま、法人営業の人数を増やすよう指示する。

パターン2

法人営業マンに営業研修を受講させる。

パターン3

売上高だけではなく毎月の予約高も予算にする。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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月初の朝礼で売上高予算の達成を発表する店長

関東地方を中心に複数のホテルを展開する「ホテル・ミロク」は、都内に5店舗の「レストラン・ミロク」を展開しています。ホテル・ミロクを知る人をレストランに呼び込もうという目的です。

「レストラン・ミロク」の旗艦店である銀座店は、ゆったりとした広い廊下を抜けるとテーブル席が10席ほどあり、そのいくつかはソファー席になっています。またその奥には大きめの個室がいくつかある、しゃれたレストランです。この銀座店は一般のお客さんが飛び込みで来店することはそれほど多くなく、ちょっとしたお祝いの席やパーティー、また企業の接待などが中心です。

ある月初の朝礼でのこと、満面の笑顔の店長が、大きな声で従業員に向けて報告しました。

店長 おはようございます! 今月も既にお客さまの予約がほぼいっぱいです。この予約のお客さまの対応をしっかりできれば今月の売上高予算はおおむね達成できます。皆さんは売上高予算のことは気にせず、とにかくお客さまにご満足いただけるよう精いっぱい心遣いしてください

従業員もうれしそうに笑みを浮かべていますが、半年前は全く違う状況でした。月初の朝礼では店長がいつも売上高予算達成までの必要額を発表します。そして従業員はお客さまに積極的に飲み物や追加注文を勧めて少しでも売上を増やすようプレッシャーをかけられました。従業員の誰もがお客さまではなく売上高予算達成ばかりに気を取られていたのです。

半年前 ~無理な値引き営業で売上高予算を達成しようとする店舗

銀座店では、店長の他、法人営業の担当者一人が営業を担当しています。二人は、お店が準備中となる日中に、手分けをしてなじみの法人を訪問し、宴会や接待の営業をします。

ある日の準備時間中のこと。「ホテル・ミロク」のレストラン事業部長がたまたま用事があり銀座店を訪問しました。事業部長は銀座店がこの1年ほど、売上高予算をなかなか達成できずに苦労していることを心配し、ときどき様子を見に来ていたのです。

事業部長 店長、今月の売上はどうですか? 予算は達成できそうですか?
店長 実は……、今月も少し厳しい状況でして……、当然今から個人の大きなパーティーは入りませんから、私と法人営業の担当者でなじみの法人さんに営業に行くところです
事業部長 そうですか。頑張ってくださいね。しかし、既に今月も20日を過ぎていますから、今からそんな大きな法人の宴会は入らないでしょう?
店長 ええ……。ですから、少し値引きをすることで他のお店の予約をキャンセルしてもらって、当店に来ていただけるように頑張っておりまして……
事業部長 なるほど……。で、どの程度の値引きをするのですか?
店長 まぁ、法人によって違いますから一概には言えませんが……。ただ多少値引きをしても十分に利益は取れますからご安心ください
事業部長は店長の話しぶりから、相当な値引きをしている可能性があることを察しました。
<閑散期など、たまになら仕方ないとしても、しょっちゅうこんなやり方をしているなら問題だ>

事業部長は何か自転車操業に近いものを感じ、戸惑っていました。

質問

売上高予算を達成するために、月末近くになると無理な値引き営業で法人の宴会を獲得している法人営業マン。あなたが事業部長ならどのような指示をしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

今の営業方針のまま、法人営業の人数を増やすよう指示する。

パターン2

法人営業マンに営業研修を受講させる。

パターン3

売上高だけではなく毎月の予約高も予算にする。

現在銀座店では店長を含めた二人しか法人営業がいません。そこで法人営業担当者を増やすように指示することも考えられます。営業マンの人数が増えればそれだけ売上増加が見込めます。しかし人数を増やせばそれだけ人件費がかさみますし、人数を増やせば売上が増えるといった単純な問題ではなさそうです。根本的に営業の方針を考え直すことが必要かもしれません。

営業の質を変えるという観点から、法人営業に関する研修を受講させることも一つの方法です。しかし法人営業の一般的な手法やテクニックを理解しても、それで値引き営業が変わるかどうかは怪しいものです。まずは値引き営業しなければならない根本的な原因を探ることが必要かもしれません。

実は事業部長が選択したのはパターン3でした。事業部長は「売上高」に加えて「予約高」についても毎月の予算を設定し、その達成を目指すよう指示したのです。予約高を予算化することで一体何が変わったのでしょうか……

予約を積み上げればやがて売上もついてくる!

その日の夜、事業部長は大学の先輩と焼き肉屋にいました。先輩は精密機械の製造会社の3代目社長です。事業部長が「ホテル・ミロク」に入社後、「レストラン・ミロク」の責任者になったころから、ときどき夕食を食べながら情報交換するようになりました。その日、先輩はとてもうれしそうに、会うなりいきなり言いました。

先輩 今日は俺のおごりだ。好きなだけ食べていいぞ
事業部長 ありがとうございます! 先輩、何かいいことでもありましたか?
先輩 実は今期の売上高予算の達成が確定したんだ。これでやっとゆっくり眠れるぞ
事業部長 えっ、先輩の会社は3月決算ですよね。まだ1月半ばなのに……。既に年間の売上高予算を超えたってことですか?
先輩 違う、違う。うちは精密機械のメーカーだから、受注してから納品まで2カ月ぐらいかかるのが普通なんだ。それで納品日に売上を計上するから、1月いっぱいの受注だけが今期の売上に計上できるわけさ
事業部長 なるほど。2月、3月に受注しても、売上が計上されるのは、納品される4月以降になるというわけですね
先輩 そういうこと。だから実家のこの会社を継いだときは戸惑ったね。受注高予算っていう概念にね
事業部長 受注高予算ですか?
先輩 そう。うちのように受注から売上計上までの期間が長い会社はやっているんだ。売上高予算を立てても期末の追い込みが効かなくなる。つまり頑張って受注しても今期の売上にならない。だから毎月の受注高を予算化して、期末の最後の最後まで受注高を追わせるんだ
事業部長は先輩の話を聞きながら、もしかしたらレストラン・ミロクでも、お客さまの「予約高」を「受注高」と考えれば使えるかもしれないぞ、と感じ始めていました。
事業部長 先輩。その受注高予算の話、もっと詳しく教えてください!

翌日、事業部長は銀座店を訪れました。

事業部長 店長のお店で少し実験をさせてほしいんですがいいですか?
店長 えっ、実験ですか?
事業部長 そうです。うちのお店はどこも毎月の売上高を予算にしていますが、この売上高予算に加えて、お客さまからの予約を「予約高」として予算化したいのです
店長 そうすると……、例えば、今月のように売上高予算に届かない場合でも、法人営業が頑張って来月以降の予約を獲得すれば、予約高予算を達成したという評価になるわけですか?
事業部長 そういうことです。この本質的な意味は理解できますか?
店長 つまり……、なるほど。今のように、常に今月の売上のために営業していてはだめだ。来月以降の売上のために営業しろ、というわけですね
事業部長 そうです! 通常、パーティーなどは数カ月前から企画が進んでいますから、うちの店を選んでいただけるよう、早い段階から対応していかないと手遅れになります。直前になって慌ててもやれることは限られてきます。
店長 だから、今月の売上を増やすために無理な値引き営業をするしかなくなってしまっているのですね
事業部長 そういうことです。予約高予算を設定すれば早め早めに動くことを意識できます。それに、毎月の予約高予算を達成できていれば、月次の売上高予算の達成に多少のブレは出るにしても、年間を合計すればほぼ売上高予算を達成できるはずです
店長 確かにそうですね!
 
【ワンポイント解説】

「受注高予算」

売上高の予算を設定することは多くの企業で行っていますが、受注から売上計上までの期間が長い企業などでは、受注高も予算として設定することが多いです。受注ができていなければその後の売上も付いてきませんから、売上高予算だけを追っていると手遅れになってしまうのです。

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