管理会計とは? 新人経理スタッフ必見! 財務会計との違い・導入メリット

2022年8月23日

※本記事は2023年1月11日、4月6日に内容の一部を更新しました。

質問

経理部の新人スタッフから「管理会計って財務会計とどう違うんでしょうか?」と聞かれたら、経理部長であるあなたは何と答えますか?

パターン1

財務会計と管理会計は呼び方が違うが、中身に大きな違いはない。

パターン2

外部報告のために法令等に基づいて行うのが財務会計、内部利用のために任意に行うのが管理会計である。

パターン3

お金の動きを管理するための会計が財務会計、部下を厳しく管理するための会計が管理会計である。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

電卓
スタッフ

管理会計を理解し、効率的な管理会計の実施を提案できるようになった経理スタッフ

ある日のこと、工作機械部品の製造・販売を営む「みろく工作機械」の経理部長が経理スタッフTさんに相談しています。
経理部長 Tさん。部門業績評価の基礎資料の作成を効率化したいんだけど、何かいい方法はないだろうか?
経理スタッフ 会計システムの部門別自動配賦の機能を活用すれば、効率化できるのではないでしょうか
経理部長 そうか! うまく導入できるよう、検討を進めてみてくれるかな

今でこそ管理会計のことを理解し、いろいろな改善提案などができるようになった経理スタッフTさんですが、新人の頃は分からないことだらけだったのです。ちょっとその頃の様子を見てみましょう。

管理会計とは? 財務会計とは違う? 疑問を抱える新人時代の経理スタッフ

数年前、経理スタッフTさんがまだ新人だった頃のことです。Tさんは経費支出の仕訳処理を担当しています。

経理部長 Tさん、財務会計的にはそれでも構わないんだけど、管理会計的に考えるとちょっとなぁ……
経理スタッフ す、すいません。財務会計的? 管理会計的? どうもピンと来なくて……。管理会計って財務会計とどう違うんでしょうか?

質問

経理部の新人スタッフから「管理会計って財務会計とどう違うんでしょうか?」と聞かれたら、経理部長であるあなたは何と答えますか?

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パターン1

財務会計と管理会計は呼び方が違うが、中身に大きな違いはない。

パターン2

外部報告のために法令等に基づいて行うのが財務会計、内部利用のために任意に行うのが管理会計である。

パターン3

お金の動きを管理するための会計が財務会計、部下を厳しく管理するための会計が管理会計である。

財務会計も管理会計も会計である点では一緒であり、同じデータが使えることも少なからずあります。しかし、その目的や中身はだいぶ違うようです。

財務会計は利害関係者への財務報告のために法令等に基づいて行うものであるのに対して、管理会計は経営管理等の目的で任意に行うものであるという点で大きく異なります。では、管理会計とは一体どのようなものなのでしょうか?

確かに、財務会計の報告書類の中にキャッシュ・フロー計算書が含まれることもあります。また、部下の管理に管理会計を使うこともあります。しかし、財務会計と管理会計の根本的な違いは別のところにあるようです。

管理会計と財務会計の違い

管理会計が財務会計とどう違うのか分からないという経理スタッフTさんに対して、経理部長が説明をはじめます。

経理部長 財務会計というのは、株主や債権者といった企業外部の利害関係者に対する報告のための会計だ。損益計算書や貸借対照表キャッシュ・フロー計算書 なんかが財務会計だ。もしこれをそれぞれの企業が好き勝手にやっていたら、どうかな?
経理スタッフ 何か信用できませんし、いろんな企業の数値も比較できません
経理部長 そうだね。だから、いろいろな企業が準拠すべきルールが法令等で定められているんだ。言わば、義務付けられている会計ってことだね
経理スタッフ なるほど! では管理会計の場合は……
経理部長 管理会計というのは、あくまでも企業の経営や管理など企業内部で利用されるために行われる会計だ。それぞれの企業が必要に応じて任意に行う会計ってことだね
経理スタッフ そうだったんですか。随分違うものなんですね

【図表】管理会計と財務会計の違い


管理会計 財務会計
利用者 企業内部(経営者、管理者など) 企業外部の利害関係者(株主、投資家、債権者、財務当局など)
目的 企業の経営や管理など企業内部で利用されるため 企業外部の利害関係者に対する報告のため
義務の有無 企業の任意(法令等の義務なし) 法令等による義務あり
作成資料 企業の任意 法令等の定めによる。
貸借対照表や損益計算書など。
キャッシュ・フロー計算書や株主資本等変動計算書などが含まれることもある。
役割 経営上の意思決定をする材料となったり、社員の管理や業績評価をする材料となったりする。 銀行等がその企業に融資するかどうか検討する材料となったり、投資家がその企業に投資するかどうか検討する材料となったりする。

管理会計の具体例(予算管理、業績評価、原価管理、経営分析、資金繰り管理など)

経理スタッフ 管理会計のイメージが今一つ分からないのですが、例えばどんなものがあるんですか?
経理部長 そうだなぁ。予算管理に、業績評価に、原価管理。これらはみな管理会計なんだよ。予算管理のケースで言えば、財務会計では収益や費用の実績額が大事で、予算はなくて構わない
経理スタッフ そうなんですか?
経理部長 でも会社として一定以上の利益を出したいとしたら、単に実績額だけつかんだってしょうがない。売上や利益の予算を作成して、それを達成できるように日常の活動を管理する仕組みが必要になってくるだろう?
経理スタッフ だから予算管理といった管理会計が必要になってくるわけですね!
経理部長 予算管理や業績評価、原価管理といったものは、“会計”という客観性のある数値の力を経営管理などに活かしている好例と言っていい
経理スタッフ なるほどー、こういったものが管理会計の具体例なんですね。少しイメージが湧きました!

【管理会計の具体例】

予算管理
企業が達成すべき数値目標を決め、達成のために管理すること。
目標を達成できたかどうか結果を確認するだけでなく、仮に目標を達成できなかった場合には原因や改善点を検討し、次の行動に繋げていくというPDCAサイクルを回していくことが大事です。また、社員が行動できるようにするためには、具体的に何をするべきかを示した行動計画を作成することも重要になります。

 ✓業績評価
個人や部門といった単位で、一定期間における業務の成果(業績への貢献など)を評価する仕組みのこと。
全社ベースの財務数値だけでは、どの部門の業績が良かったのか、どの製品の収益が良かったのか等、細かく分析することができません。そのため、部門別や製品別などのセグメントに分けて管理するために、管理会計が活用されます。

原価管理
製品の製造やサービスの提供にかかる原価を算出し、目標値との差異を分析して原価を改善すること。
主に製造業で用いられることが多かったのですが、最近では幅広い業種で活用されてきています。
原材料価格の高騰が製造原価に及ぼす影響を計算・分析し、販売価格の値上げなどの対応策を検討するのにも、管理会計が活用できます。

✓経営分析
損益計算書や貸借対照表の金額だけ見ても分からない部分でも、それらの数値から経営指標を算出することで、さまざまな視点から経営の状態を分析することができるようになります。
例えば、収益性・安全性・効率性等に関わる各種経営指標を算出し、それを期間比較したり、同業者や業績平均の数値と比較したりして、自社の課題や強みを識別し、今後の対応策を検討するのにも、管理会計が活用できます。
経営指標には、例えば次のような視点や指標があります。
◇収益性:利益を稼ぎ出す力のこと。
(例)ROA(総資産利益率)、ROE(自己資本当期純利益率)、損益分岐点など
◇安全性:財務返済能力や財務体質のこと。
(例)流動比率当座比率自己資本比率など
◇効率性:経営資源をムダなく活用できている度合のこと。
(例)売上債権回転期間、棚卸資産回転期間など

資金繰り管理
資金繰りとは、資金の調達や運用など資金のやりくりのことを言います。資金繰りをする上では、資金繰りの実績をつかむこと以上に、資金繰りの予定をすることが重要になります。今後の収入や支出などを踏まえ資金繰りの予定を立て、資金が足りなくなりそうなら、それに備えて借入れを行ったり、支出を抑えたりといった対策を検討します。
財務会計システムの実績データや予算データを活用することで、効率的に資金繰り予定を作成できます。

管理会計導入のメリット

経理スタッフ ところで、管理会計を導入することでどんなメリットがあるんですか?
経理部長 いろいろあって一言で表すのは難しいが、例えば……
そう言うと、経理部長が管理会計導入のメリットをいくつか挙げて説明したのです。それは以下のようなものでした。

【管理会計導入のメリット】

✓役員・社員等の行動の方向付け
役員・社員等の行動を方向付けるには目標(中長期や短期)を設定することが有効ですが、目標を達成するためには予算(年度、月次など)設定が行われ、さらに行動計画を策定したりすることになります。予算の達成状況を評価し、必要な対応策を検討するためには、予算と実績との比較なども行われます。これらは財務会計では求められていませんが、管理会計によって企業が予算・実績の比較分析などができるような仕組みを構築することができます。
また、経営意思決定の判断に必要なデータがあれば、管理会計によって、企業独自にそのようなデータが入手できるような仕組みを構築することができます。

✓役員・社員等の公正な業績評価
役員・社員等の公正な業績評価を行うためには、部門別や個人別などの業績を把握できることなどが有効です。また、部門別の業績を把握して部門責任者の業績を評価する際には、部門業績にその部門責任者が管理できないコストが含まれていると公正な評価ができなくなります。管理可能利益と管理不能利益を区分することができれば責任範囲が明確になるため、より納得感のある業績評価が期待できます。管理会計によって、管理可能利益と管理不能利益を区分できるような仕組みも構築することができます。

✓原価や経費のコントロール
原価や経費がかかり過ぎないようにコントロールするためには、かかる原価や経費を見積もったり、一定金額以内に抑えるように管理することが必要になります。また実際に各部門などでどれだけの原価や経費がかかったのかを見える化することで無駄なコスト削減へのインセンティブが働きます。管理会計によって、かかった原価や経費を部門別などでも把握できる仕組みを構築することもできます。

✓タイムリーな改善のための材料の提供
タイムリーに改善策を検討するためには、タイムリーに問題発生の有無等を把握できることが必要です。タイムリーに予算と実績の乖離の有無などを把握できるような仕組みを構築することで、予算と実績に乖離が生じた場合に、タイムリーに軌道修正することができます。

✓経営状態の把握
経営状態を客観的な数値によって把握することは重要であり、財務会計が役立つことは言うまでもありません。ただし、経営・管理する上では財務会計(損益計算書、貸借対照表など)の数値にとどまらず、もっと詳しいデータを利用したいこともあるでしょう。例えば、全社合計の業績だけでなく、部門別の業績や製品グループ別の採算を把握したいといったこともその一つです。経営状態の把握のために必要なデータがあれば、財務会計上は求められていないとしても、管理会計によって企業が独自に把握できるような仕組みを構築することができます。

管理会計のデメリット

経理部長 でも管理会計にはデメリットもある
経理スタッフ それはどんなことでしょうか?
経理部長 何でもかんでも管理会計用に一からデータを作っていたらとても手間がかかって大変だ。それに、管理会計は内部利用のためのものだということで、外部報告のものよりも信頼性が落ちるおそれもある

管理会計を効率的に進める方法

経理部長 そこで君に頭に入れておいて欲しいことがある
経理スタッフ 何でしょうか?
経理部長 財務会計と管理会計では、目的や中身に違いがあるけど、共通する部分も少なくないよね? 効率を考えたら?
経理スタッフ あっ、だったら財務会計のデータを活用しない手はないんじゃないでしょうか?
経理部長 そういうことだ。せっかく財務会計に必要となる財務会計データがあるんだから、それを有効活用し、管理会計にも役立つようにアレンジすれば、一から管理会計を構築する必要がない。だから、効率的・効果的に管理会計を実施することができるってことさ。財務会計のデータを有効活用すれば、数値の信頼性だって確保できる
経理スタッフ そういうことですか。うちの会社もそうしているんでしょうか?
経理部長 そうだね。例えば、うちの会社の財務会計システムは、部門別とか、補助科目別とか、いろいろな切り口でブレイクダウンしていくことができるし、いろんな経営指標を算出・分析できるようにもなっている。それから……
管理会計に興味を持ち始めた経理スタッフの、今後の成長に期待したいものです。

ワンポイント解説

「管理会計」

管理会計は、経営や管理など企業内部での利用のために任意で行う会計です。その意味で、損益計算書や貸借対照表の作成など外部報告のために法令等に基づいて行う財務会計とは異なります。ただし、財務会計で必要となる会計データをできる限り有効活用し、管理会計にも役立つようにアレンジすることで、管理会計を効率的・効果的に実施することができますので、そのことを念頭に管理会計を構築していくと良いでしょう。

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