連続赤字決算の旅館。対応の検討に際して活用した会計手法とは?

2020年12月3日

宿泊業

  • 宿泊業
2020/12/03

質問

老舗旅館「お宿みろく」は、平均客室稼働率が60%未満で、2年連続赤字決算となり、社長は対応を検討するため、幹部社員に調査をさせようとしています。あなたが経営者なら次のうちどれを優先しますか?

パターン1

今後の施策を検討するために、施策ごとの売上の変化と費用の関係を調査させる。

パターン2

宿泊料金を高めるために、他の高級旅館の価格を調査させる。

パターン3

客数を増やすために、ライバル旅館の販売促進策を調査させる。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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2年度連続の赤字決算

地域の温泉街で最古の老舗旅館「お宿みろく」は、創業以来100年を超えて営業しています。5年前に4代目が社長を継いだときに、1室2人利用を標準として1人当たり1泊¥15,000の料金を設定しました。眺望がいい展望露天風呂と腕のいい板長による料理を目当てに、先代からの馴染み客も多く訪れ、週末や休前日はほぼ満室で、平日も8割がたの客室が埋まっていました。
 
ところが、ここ数年は空室が目立つようになりました。特に、3年前からは月間平均の客室稼働率が6割を切るときもあり、2年度にわたって赤字決算が続いています。このままでは、多くの従業員を路頭に迷わせる懸念もあります。

そんな中、社長は女将とともに「お宿みろく」の今後の対応策について、いろいろと検討してみることにしました。

社長 うちはPromotionをあまりやってないから、広告やキャンペーンを強化して稼働率を上げることを考える必要があるんじゃないか?
女将 でも稼働率上げるのって大変よ。価格を引き上げて、稼働率が低くても売上を挽回する方法を考えるべきじゃ……

対応策について、社長と女将の悩みは深まるばかりです。
 

質問

老舗旅館「お宿みろく」は、平均客室稼働率が60%未満で、2年連続赤字決算となり、社長は対応を検討するため、幹部社員に調査をさせようとしています。あなたが経営者なら次のうちどれを優先しますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

今後の施策を検討するために、施策ごとの売上の変化と費用の関係を調査させる。

パターン2

宿泊料金を高めるために、他の高級旅館の価格を調査させる。

パターン3

客数を増やすために、ライバル旅館の販売促進策を調査させる。

「お宿みろく」の社長が選択したのはパターン1でした。いずれかの策を優先する前にやるべきことがあることに気付いたのです。どういうことかと言うと……
 

宿泊料金を高めるために、他の高級旅館の価格を調査することを優先することも考えられます。しかし、そのためには設備のリニューアルや料理の質向上など、追加の支出が生じそうです。それらも含めて、よく検討する必要があるかもしれません。

客数を増やすために、ライバルの販売促進策の調査を優先することも考えられます。しかし、販売促進の費用はどれ位かかり、収益がどの位増えるのかなども含めて、よく検討する必要があるかもしれません。
 

ターニングポイントはある分析手法に注目したことだった

ある日、地元企業の忘年会に出席した社長は、同級生で家業の製造業を継いだ友人と話がはずみました。

社長 おお、元気か? お互い、跡継ぎはつらいな
友人 そうだな。どうだい景気は?
社長 うん、相変わらず芳しくない。それで、稼働率を引き上げるために販売促進策をとったらいいのか、売上減少分を挽回するために宿泊料金引き上げ策をとったらいいのか……。でも、先がつかめないというか……
友人 要は、売上の増加分が費用の増加分をカバーできるのかどうかが予測できないから心配ってことなんじゃないか?
社長 おお、そういうことだな!
友人 じゃ、『秘伝』を教えてやろうか? うちでも、簡単なシミュレーションをするときに使っているんだ。まず、費用を変動費と固定費とに分けて考えるんだ

そう言って友人は変動費と固定費について教えてくれたのです。

友人 例えば、製品1個の材料費が¥2,000だとしよう。2個作ったら¥4,000だ。この費用は製造量に比例して変動するだろ? だから変動費って言うんだ
社長 なるほど
友人 でも他にも費用がかかっているはずだ。例えば、機械や工場の減価償却費や火災保険料。工場で働いてる人たちの給料なんかもかかってる
社長 うん、そうだな
友人 こういう費用は、製品を大量に作っても、不景気で全く作らなくても一定金額発生するだろ? だからこれを固定費って言うんだ
社長 ほう。すると、うちだと料理の食材費が変動費で、……
友人 費用を変動費と固定費を分けたら、次に売上高との関係についても考えみよう
社長 と言うと?
友人 さっきの例で製品を1個当たり¥5,000で売るとしよう。で、この販売単価¥5,000から変動費部分¥2,000を引いた¥3,000、これを限界利益って言うんだけど、実はこれがポイントなんだ


友人はそう言うと、売上高の変化に応じて利益がどう変化していくのかについて説明してくれたのです。
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友人 月間の販売見込みが100個だったら、月間の限界利益は¥300,000だ。忘れちゃいけないのは固定費だ

そう言うと友人は、月間の固定費が¥450,000かかるとしたら、100個売って¥300,000の限界利益を稼いでも赤字だということを説明し、さらに聞いてきたのです。

友人 じゃあ、月間で利益を出すためにはどうすればいいと思う?
社長 うーんと、固定費を上回る位、限界利益を稼ぎ出す必要があるってことか!
友人 そうだそうだ。それで、売上高=変動費+固定費になる点があって、これを損益分岐点と言う。損益分岐点は、別の見方をすると、限界利益と固定費とが同じ額になる点でもある
社長 限界利益と固定費が同じ額になるということは、さっきの例で固定費が月間¥450,000発生するとなると、1個当たりの限界利益が¥3,000だから、¥450,000÷¥3,000で、150個売れるときが損益分岐点か?
友人 お、正解! だから、150個以上売らないと利益を出せない

こうして、社長は損益分岐点の考え方を知ることができたのでした。

友人 じゃあ、現場がどんなに頑張っても月間150個しか売れないとしたら、利益を出すにはどうすればいい?
社長 販売単価を値上げするか、変動費を下げる、で、いいのか?
友人 そうだが、その他に固定費を下げるっていう手もある
社長 固定費って、毎月同じ金額かかるから固定費なんだろう?
友人 確かに、有形固定資産の減価償却費などは金額を変更できないが、例えば、販売促進の費用なんかは、いくらかけるか決められるから固定費でも金額は変更できる
社長 あ! そういうことか。いや、経理は深いなぁ
友人 ま、こうした考え方のCVP分析でシミュレーションができるってことさ。でも、旅館の場合、キャパシティに限界があるから、それも念頭にシミュレーションした方がいいぞ
社長 そうか! ありがとう。参考になったよ。さっ飲むぞ!

これを機に「お宿みろく」の社長は、考えた改革案について、金額的な影響をシミュレーションしながらよく検討し、今後の対応に向けて歩み始めたのでした。

ワンポイント解説

「CVP分析」

CVP分析とは、「コスト」(Cost) と「販売量」(Volume) と「利益」(Profit)の関係を分析する手法です。コストを、販売量の増減に比例して増減する「変動費」とそうではない「固定費」に分け、売上高から変動費を差し引いて限界利益を算出することで、販売量の増減と利益の増減との関係のシミュレーションがしやすくなります。

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